無          我

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仏師 松久朋琳は著書「一心一仏」に、仏像彫刻にとって円の意義を下記のように書いています。「円形は字の通り「円満具足」み仏の愛の慈悲を象徴しております。そして円は始めも終わりもない、無限の意を表しており、時空を超えた宇宙の壮大さの表現でもございます。また、宇宙の活動は太陽を中心として、地球も他の惑星も円を描きつつ回転いたしており、神仏すなわち大宇宙とみれば、仏教彫刻において円が基調をなしていることにも納得がいくのです。」
鎖の環の数は西国三十三観音寺に合わせて33ヶとして勢至菩薩に掛けました。

最後に、
鎖の環一つ一つは皆さんの一人一人でもあります。この輪に思い遣りの心を入れると、環はつながって大きな幸せの輪になることを勢至菩薩は手を合わせて祈っておられます。

なお、縁、空、零については作品『縁から空でも解説しています。

   
 材質:ヒノキ   全高:28cm
 2007.12.製作
 

「我」を否定する「無我」は、人は他者と無関係に一人では存在できないと言う仏教の教えであり、この世では総てのものが関係し合って存在しているという真理です。この教えを「鎖」に例えてみました。鎖は一個一個の環がつながって形成されています。単独では鎖にならず、つながっていて始めて役立つものです。一本の木から鎖を作成して、この教えを表現してみました。
また、「空」の原語は「零」であると言われていますが、鎖の始めと終わりをつなぐと輪になって「0」になります。零は整数に加えても減じても数値は変わりません。この自然数の基本である零から空が創造されます。空は仏教思想の基本になっているようです。更に、「鎖」は縁起も連想させます。縁起とは、一切の物事は実体もなくて(核になる物がない)、さまざまな原因や条件(鎖の環)が寄り集まって成立(鎖になる)していると言われています。輪になった鎖の中心には何も存在しないので、「事物の中心に核のような不滅のものは存在しない」という無実体論の根底をつらぬく縁起をも表しています。